前回は、発達障害を中心とした関わる際に配慮が必要なお子さんの特性として、カメラの例を用いながらイマジネーションの苦手さについて説明させていただきました。
ここからは、カメラの例えではない特性についての括りから説明させていただきます。
その中の1つの見方に、『刺激へのつられやすさ』があります。
ここで言う『刺激』とは、目に見えたもの、聞こえた音、匂いなど、感覚器から取り入れた情報全てのことです。
これらの『刺激』につられてしまうと、本来すべきことができにくくなってしまいます。
私が括った『刺激へのつられやすさ』は、2種類に分けて考えることができるかなと思います。
それは、『散漫さ』と『衝動性』です。
散漫さ
私たちは、その時いる環境からとてつもなくたくさんの情報を常に入力しています。
しかし、そのほとんどの情報には焦点を当てないため、情報としては入ってきているけど、意識までは上がってこないという現象が起こります。
私たちは、『とてつもなくたくさん入ってくる情報の中から大事なものを選んで意識に上げる』ということ常にしながら生きています。
不要な情報を省く分、注目すべきことにしっかり取り組むことができます。
「音楽を聴きながら本を読んでいると、いつの間にか音楽に気を止めなくなっていた。」ということなどがその例です。
本を読むことにものすごく集中した結果、音楽に意識を向けなくなったということです。
そして、この情報を意識に上げる傾向は人によって異なります。
たくさんの情報を意識に上げてしまうと、それらに対応するために本来すべきことに集中できる割合が減ってしまいます。
本来すべきことに集中できる割合が減ったり、一旦本来すべきことに向けていた集中を解いて別の情報に集中したりすれば、本来すべきことを失敗してしまうリスクは上がってしまいます。
このような、「情報として取り入れたものを余分なものまでたくさん意識に上げてしまう」ということが『散漫さ』ということです。
衝動性
私たちは、常にいろいろなことを思いつきながら生活をしています。
しかし、思いついたことについてすべきか・すべきではないかを判断したり、一度にいろいろなことを思いついたらそれを選んだり、順番を考えたりして行動に移していきます。
私たちは『意識に上がってきた思いついたことを、取捨選択して行動に移す』ということを常にしながら生きています。
思いついたことを行動に移さなかったり、優先順位をつけたりすることで、その時必要なことをこなすことができるようになります。
「仕事中に銀行振込をしていないことを思い出しても、すぐに銀行やATMに走ることはなく、業務時間内は仕事をこなす。」ということなどがその例です。
業務時間内は、思いついた銀行振込はすべきことではない行動です。そのような取捨選択をしたことで、仕事をこなすことができます。
そして、この思いついたことを取捨選択する傾向は人によって異なります。
思いついたことの多くを実行するものとして選択してしまうと、それらに対応するために本来すべきことに使う時間は少なくなってしまいます。
本来すべきことを実行するための時間が減ったり、一旦本来すべきことをやめて別のことを実行したりすれば、本来すべきことを失敗してしまうリスクは上がってしまいます。
このような、「思いついたことの多くを実行に移す行動として選択してしまう」ということが『衝動性』ということです。
『刺激につられやすい』ということ
『刺激につられやすい』とは、上記の『散漫さ』も『衝動性』も強い・高いということです。
つまり、「情報として取り入れたものを余分なものまでたくさん意識に上げてしまい、その思いついたことの多くを実行に移す行動として選択してしまう」ということです。
要するに、「平均的なお子さんよりも、いろいろなことに気を止めやすく、一旦思いついてしまったらそれを我慢することが苦手」ということです。
『刺激につられやすい』という特性がかなりダイレクトに影響していると考えられる例に、「迷子」と「部屋の片付けをしていたら余計に散らかる」があります。
いろいろなものに気が止まりやすく、思いついてしまったらそれを我慢することが苦手な特性があったら、「そこで待っていなさい」や「ママから離れないようにね」という指示があっても、楽しそうな方に行ってしまったり、楽しそうなことをやってしまったりしますよね。
こうして「迷子」という状態になります。
いろいろなものに気が止まりやすく、思いついてしまったらそれを我慢することが苦手な特性があったら、「今掃除をしている」という認識があっても、整理していたら出てきたマンガやアルバムを見てしまいますよね。
こうして「部屋の片づけをしていたら余計に散らかる」という状態になります。
このように、『刺激につられやすい』という特性があると、「すべきことをする」ということをとてもやりにくくしてしまいます。
『刺激につられやすい』お子さんへの対応
『刺激へのつられやすさ』は、お子さん自身の努力で改善させることはとても難しい特性です。
なぜなら、『刺激につられやすい』お子さんには自然にたくさんの情報が入ってきてしまうし、考えるよりも先に行動してしまうからです。
(服薬や心理療法という方法はあります。)
「先を見通す能力」が向上することで『衝動性』が多少和らぎ、また「自身の特性について自覚ができている」状態にならないと、自分なりに気をつけるということは難しいと考えられます。
そしてこれができるのは、もはや「子ども」とは呼ばないような年代になってからのことだと思います。
そんなわけで、『刺激につられやすい』お子さんへの対応とは、『刺激につられやすい特性があっても、すべきことをすることができるようになるための周囲の大人による工夫や働きかけ』ということになります。
お子さんが頑張ってどうこうということではないので、お子さんが「普通にやっていたら自然とできてた」となるような環境が作れたら理想だと思います。
では、大人による工夫や働きかけとはどのようなものかということですが、それは大きく分けると2種類で、「余分な刺激を排除する」ためのものと、「すべきことに意識を向けさせる・集中させる」ためのものです。
余分な刺激を排除する
「余分な刺激を排除する」とは、『散漫さ』に対応するための配慮です。
勉強する机の上を整頓する、片付けやすくするために子ども部屋にたくさんおもちゃを置かない、など、お子さんの気が止まりやすいものを減らすということです。
すべきことに意識を向けさせる・集中させる
「すべきことに意識を向けさせる・集中させる」とは、『衝動性』の高さによって思いついたことに意識が逸れてしまったお子さんをすべき行動の方向に修正するための配慮です。
丁寧な声かけ、アラームの活用、見えやすい場所への貼り紙など、思いついた行動に意識が逸れてしまっているお子さんに、「あぁ、そうだっけ」とすべき行動を意識し直させるものです。
お子さんは、わざとはやっていない
『刺激につられやすい』お子さんの対応をする際に最も大切なことは、『そのお子さんが刺激につられやすい特性があるということを対応する側がしっかり理解がする』ということです。
振り出しの記事に結局戻ります。
前述のとおり、『刺激につられやすい』特性があるお子さんは、考える前に行動してしまっている状態です。
そのため、その時入ってきた楽しそうな情報に飛びついてしまう結果、「指示に従わない」や「約束を破る」ということになりがちです。
しかし、『刺激につられやすい』お子さんたちは、大人を困らせようと思ってわざとそうしているわけではありません。
むしろ、ちゃんとやりたいのにやれずに困っているかもしれません。
周りの大人がお子さんの『刺激へのつられやすさ』を理解し、お子さんが失敗しないための働きかけをすることは、お子さんの喜び、そしてお子さんのその姿を見る大人の喜びに繋がっていきます。