「〇〇君は好きなことばかりやっている」は、発達障害を中心とした関わる際に配慮が必要なお子さんの親御さんからよく聞かれるコメントです。
裏を返せば、興味を持っていること以外のことをするのはなかなか気が乗らない=やる気が出ないということです。
世の中には、「やりたくはないけど、やらなければいけないこと」というものがたくさんあります。
特に義務教育の間は、全てのことを満遍なく器用にこなすことができるお子さんが、優秀なお子さんと評価されがちです。
必ずしもそういうものでもないだろうと思いますが…。
興味があることにしかやる気を出すことができないという特性は、将来のことを案ずる親御さんにとってとても心配になりやすい特性であると思います。
『やる気』が出ない理由
ではなぜ、発達障害のお子さんは、興味がないことに対してやる気を出しにくいのでしょうか?
そこには、これまでお話させていただいてきた様々なことが影響していると考えられます。
(1)イマジネーションする能力
*イマジネーションする能力についての説明はこちらです。
発達障害のお子さんは、「イマジネーションする能力=目の前にないことについて考えること」に苦手さがある場合が多いです。
イマジネーションする能力に苦手さがあると、未来を想像する・思い描くということも苦手になります。
例えば義務教育年代にありがちな「やりたくはないけど、やらなくてはいけないこと」は、将来のためには役に立つことばかりです。
しかし、イマジネーションする能力に苦手さがあると、それをやることによって良くなった未来を想像することができないため、「なんのためにやらなくてはいけないんだろう?」となってしまいます。
「やる意味あるのかな?」と思ってしまったら、それを頑張ろうとは思えませんよね。
(2)カメラの機能
*カメラの例えについての説明はこちらです。
発達障害のお子さんは、2カメ(他者目線のカメラ)と3カメ(自分と相手を含んだ場を俯瞰的に映したカメラ)の機能に難しさがある場合が多いです。
そして、「やりたくはないけど、やらなくてはいけないこと」をしようと思うことにも、この2カメと3カメの機能が影響している面があると考えられます。
例えば試験勉強をやろうとするときには、「悪い点を取ると親に怒られるから(2カメ)」「〇〇ちゃんに頭がいいと思われたい(2カメ)」「みんな勉強してるから(3カメ)」といった理由で仕方がなく勉強したりしなかったでしょうか。
このように、「やりたくはないけど、やらなくてはいけないこと」をすることには、周囲との関係性やその時の状況・雰囲気が影響します。
しかし、2カメ・3カメの機能に難しさがあると、周囲との関係性や状況・雰囲気を察することはしないため、周りを気にせず自分の考えを最優先にしてしまいます。
そのため、周りの子たちがみんなやっていても「僕はやりたくない。」となったり、「みんなやってる。」と焦る必要はなくなってしまいます。
周りを気にする・合わせるということが必ずしも良いことというわけではありませんが…。
(3)短期報酬と長期報酬
*短期報酬と長期報酬についての説明はこちらです。
発達障害等のお子さんは、長期報酬(遠くにある大きな良いこと)より、短期報酬(近くにある小さな良いこと)を優先させてしまう傾向が高い場合が多いです。
そして、「やりたくはないけど、やらなくてはいけないこと」をしようと思うことには、長期報酬を優先にできるのかが影響していると考えられます。
これも勉強がわかりやすい例であると思いますが、「遊びたい」「眠い」「面倒臭い」といった近くにある気持ちを我慢して勉強しないと、志望校合格や良い点数は手に入らないし、成績が下がることを回避することはできません。
このように、「やりたくはないけど、やらなければいけないことを」をするということは、短期報酬を得ることを我慢し、長期報酬を得るということです。
しかし、短期報酬を優先させてしまうと、「誘惑に負ける」という状態になってしまい、遠くにある「大きな」良い状態は手に入らなくなってしまいます。
発達障害のお子さんにやる気を出してもらうためには
本人の将来のことを考えても、すべきことにはやる気を出してやってもらったほうが当然良いですよね。
そのための方法は、大きく分けると2つあると考えています。
(1)やる気に影響すると考えられる苦手さを補う
ここまで説明させていただいたように、未来をイマジネーションする能力、周囲を察する能力、目先の小さな良いことに捕らわれやすい特性、といったことが、「やりたくはないけど、やらなくてはいけないこと」をしようと思うためには必要です。
なので、これらの能力・特性に苦手さがあるなら、それを補ってあげる必要があります。
それをすることによるメリット/それをしないことによるデメリットを丁寧に説明したり、それをすると/それをしないと周囲からどう思われるかを説明したり、目先の小さな良いことを我慢することによってどのような大きな良いことを手に入れることができるのかを説明したり。
これらの説明をすることによって、お子さんが目からウロコが落ちるような状態になれば、「そうだったんだ!そういうことなら頑張るよ(^O^)」となったりするかもしれません。
しかし、この苦手を補うという考え方には、無理がある部分もあります。
このやり方は丁寧に説明した内容について思い描いてもらうことで、目からウロコが落ちるような発見をしてもらうということですが、ここにはイマジネーションすることが苦手なお子さん達にイマジネーションしてもらおうとしているという矛盾があります。
説明した内容からこちらが意図したような内容をイマジネーションしてもらわないと、「やりたくはないけど、やらなくてはいけない」から頑張ろうとはなりません。
(2)やる気を捨てる
上記のことから、別の発想についても考えなければなりません。
それは、「やる気」を捨てるという発想です。
そもそも、「やる気」を出すということは目標だったり、ゴールなのでしょうか?
親御さんが本当にしてほしいことは、「やる気を出す」ということではなくて、「すべきことをする」ということではないでしょうか。
そう考えると、こんなタイトルから始めてしまいましたが、必ずしも「やる気」は出なくても良いのです。
やる気は、「すべきことをする」ために必要なものです。しかし、「やる気」がなくても「すべきことをする」ことはできます。
「やる気」は出させないけど「すべきことをする」ようになるには
「やる気」はないけど「すべきことをする」ことができている状態になっているということは、本人目線にすると「知らないうちにやれてた。」という状態を作ることです。
そのためにすることは、以下の通りです。
①目標の状態をしっかりと捉える。
②その状態に持っていくためには何が必要かを考える。
③必要な状態を満たすことができるやる気を必要としない行動を用意する。
ゲームの要素を取り入れた学習教材などが分かりやすい例であると思います。
上記の順序で進めると、
①小学校〇年生の漢字を覚える。
②小学校〇年生で習う漢字は、□、△、●・・・である。
③漢字を正しく入力するとミサイルが発射されて敵を倒すことができるゲームを用意する。
このように状況を整えれば、「やる気」は必要なく、ゲームを楽しんでいるうちに漢字を覚えることができるでしょう。
上記の例は、目標をゲーム形式にするというアレンジです。
そして次の例は、目標をもっと見えなくした例です。
①引き算を覚える。
②2ケタの引き算までは暗算でできるようにしたい。
③一緒にお店屋さんごっこをやって店員役をしてもらい、大きなお金を出してお釣りの計算を頑張ってもらう。
このような状況が作れれば、引き算の練習をしているということも思わないかもしれませんね。
この例のように、「やる気」を捨てる発想は、「意図せずやっていたら、目標も達成できていた」「目の前にあるやりたいことをやっていたら、いつの間にか望ましい方向に進んでいた」という状態を作るやり方です。
このような方法で、目標達成につながる「やる気」を必要としない行動を提供できれば、子どもにとってはできることが増え、大人にとっても将来への不安が減り、まさにWin−Winではないでしょうか。
ただ、このようなやり方をしようと思ったら、周囲の大人が綿密に練られた枠組みをしっかり作ってあげる必要があります。
とはいえ、このような枠組みは、どのような場面でも作ることができるものではないでしょう。
特にお子さんの年齢が上がってくると、ちょっとゲーム感覚を取り入れたぐらいでは「めんどくさい」に負けてしまうでしょう。
しかし、このような考え方を理解し、このような行動を提供できる可能性を探ることが習慣になるだけで、お子さんにとってやりやすい場面を増やすことができるのではないでしょうか。
まとめ
発達障害のお子さん達は、「やる気を出す」や「我慢してやる」ということは特性上どうしても苦手です。
ここでは、その対策として苦手を補う方法と、苦手な部分を取り除く方法をご紹介しましたが、結局共通することは、その子の特性を正確に把握するということであると思います。
全ての場面でお子さんの特性に沿うことは難しいと思いますが、お子さんの特性に沿えた分だけお子さんが幸せになる可能性が増えるということは、間違いなく言えることだと思います。