小さなお子さんは、転んで痛がったり、暗い所を怖がったり、友達におもちゃを取られて嫌がったりということが毎日のようにあると思います。
そのような時、お子さんにどのように声を掛けますか?
このような場面で、日本特有の声の掛け方のパターンがあります。
そして、その声の掛け方は、お子さんを感情のコントロールが苦手な子にしてしまうかもしれません。
この記事は、『子どもの感情コントロールと心理臨床』(大河原美以、2015)から学んだことの記録です。著者の大河原美以氏は、児童福祉施設や精神科思春期外来に勤務された後に教育心理学が専門の大学教授として活躍されています。本作では、お子さんが感情をコントロールする能力を身につける過程と、それと深く関連のある愛着形成やトラウマについて、詳細に説明されています。本のメインターゲットは支援者なので、やや難しい部分もありますが、コントロールに困難を抱えたお子さんに対してだけでなく、全てのお子さんと接する際に使えるヒントがたくさん詰まっています☆
「感情の社会化」
お子さんの成長の過程として、感情をコントロールするということの前段階で、「自分が体験した感情を言葉で表現できるようになる」というステップがあります。
これを「感情の社会化」と言います。
この「感情の社会化」は、親がお子さんの体験している感情を感じ取って、それを言葉にして返すということを繰り返すことで養われていきます。
お散歩中やブランコに乗っている時など、お子さんがキャッキャしていたら、親は自然と「楽しいねぇ」「嬉しいねぇ」などと声を掛けるでしょう。
このようなやり取りを通して、お子さんは、
自分の身体の中を流れているエネルギーとしての身体感覚と「うれしい」「楽しい」という言葉(記号)が結びつくということを学習している
ということになります。
日本の大人は、ネガティブな「感情の社会化」をさせない
ここからのお話、ネガティブな「感情の社会化」に、日本特有のパターンがあります。
それは、「ネガティブな感情を無かったことにする」ということです。
『子どもの感情コントロールと心理臨床』では、例として「砂場で遊んでいたら友達にスコップを取られて暴れた男の子」が挙げられています。
こんな時、「もう泣かないの」「怒らないの」「こっちにもスコップあるよ」「仲良く遊ぶんだよ」といった声掛けをされることが多いのではないかと思います。
お子さんが転んだときにも、「痛くない、痛くない♪」と慰めたりしますよね。
親はこのような言葉を、優しく諭すように伝えています。
当然、愛のある対応です。
しかし、お子さんが体験したネガティブな感情はどこへ行ってしまうのでしょうか?
このことについて著者の大河原氏は、
多くの日本人は、たとえ2歳であっても、不快になった時には不快を表出することはよくないことだと考えている。そして、それを親が制御する声掛けを行うことになる。その結果、子どもは、不快感情は表出してはいけないのだということを学ぶことにはなるが、自分の身体にあふれてくる不快をどう表現すれば良いのかは学ぶことができず、ただただ抑え込むことを学ぶのである。そこで抑え込まれた不快感情は、いずれ出口を求めることになる。
と説明されています。
つまり、日本の大人は、子どものネガティブな「感情の社会化」を防いでしまっているということです。
本来であれば良い感情と同じように、お子さんの感情を感じ取って、それを言葉にして返すということをすべき所です。
この「感情と言葉の結びつきを学ぶ」ということの先に、その名前の付いた感情に対処するというステップが待っています。
しかし「感情の社会化を防ぐ」という対応をされると、その感情に対処する練習ができません。
無かったことにされたネガティブな感情は、でも本当は未解決のままそこにあるので、徐々に溜まっていったり、持ちきれなくなることもあるかも知れません。
「感情の社会化」を極端に防ぎまくると、遅かれ早かれ問題が生じます。
わかりやすくするために、『極端な』お話を展開します。
例えばお子さんが転んでしまったとします。
絶対痛いです。だって、転んでますから。
でも、親が「痛くない、痛くない♪」と「感情の社会化」を防ぎ、「痛い」というネガティブな感情を無かったことにするとします。
自分は痛い。親は「痛くない」と言っている。
これは、お子さんにとって絶対の存在である親の意見と、自分の感覚に矛盾がある状態と言えます。
こんな時、「でも痛いんだもん!」とワーワー騒ぐと、「聞き分けの悪い子」になります。
一方、「大切な親の言う通りにしなくちゃ」と痛みを無かったことにしようとすると、実際は痛いので、自分の感情を飛ばすという処理をして対応することになります。
自分の感情を飛ばして親の言う通りにすることを繰り返す…。
そのようにして成長していったお子さんが、思春期以降に何らかの問題を抱えるということは、可能性として非常に高いでしょう。
このように、「感情の社会化を防ぐ」という対応を繰り返していくと、遅かれ早かれ問題が生じる可能性が高まってしまいます。
子どものネガティブな感情に寄り添おう!
お子さんが何かネガティブな感情を持ったとき、親がすべきことは、その感情を否定すること・無かったことにすることではありません。
すべきことは、そのお子さんが抱えている感情を受け入れる、承認することです。
転んだ子の例で言えば、「痛かったね」です。
まずは、お子さんが持ったネガティブな感情を承認します。
お子さんの持った感情に共感しながら、抱きしめる、背中をさする、頭を撫でるといったことをしながら、お子さんが安心して気持ちを鎮めていくことを手伝います。
「痛かったね」「怖かったね」「辛いね」「悲しいね」「悔しいね」。
このような共感を示す声掛けと、安心を与えるための触れ合いの経験を繰り返しながら、お子さんは自分の気持ちを鎮める能力を獲得していきます。
お子さんに伝えること、身につけてもらうべきことは、「◯◯じゃないから大丈夫」という対処方法ではありません。
身に付けてもらうべきなのは、親との愛着関係に基づいた、「◯◯だけど、大丈夫」と考え、対処する能力です。
「◯◯ね」とお子さんのネガティブな感情に共感し、お子さんに安心感を提供することで、お子さんのネガティブな感情に対処する力を養っていただければと思います。
この記事は、『子どもの感情コントロールと心理臨床』(大河原美以、2015)から学んだことの記録です。