カジノに関するニュースや、有名人の違法薬物による逮捕・・・。
『依存症』についての関心は高まってきていると感じますが、『依存症』についての世間の理解が深まっているかと考えると、それはまだまだと言わざるを得ない状況かなと思います。
依存症当事者の回復やそのための支援のためには、『依存症』についての周囲や世間の理解が不可欠です。
依存症対策に関わらせていただいている1人として、『依存症』についてご紹介させていただければと思います。
『依存症』とは
『依存症』という言葉
アルコール、薬物、ギャンブル、ネット・ゲーム、性、窃盗、放火・・・。
依存する対象はたくさんあります。
ちなみに本来は、『依存症』という言葉は物質を取り入れるタイプのものにしか使いません。
ギャンブルなどの行動のほうは「嗜癖(しへき)」という言葉を使います。
しかし、「嗜癖」と言われても何のことだかわからないので、ひっくるめて「依存症」でOKということになっているそうです。
また、医師が行う「診断」のための基準はもっと分かりにくくて、シンプルに「〇〇依存症」とはなっていません。
「アルコール使用障害」となったり、「ギャンブル障害」となったり、古いと「病的賭博」のような言い方をしたり。
いろいろありますが、呼び方によって症状や支援方法が変わるわけではありませんので、この記事でも最も馴染みのある『依存症』で統一させていただきます。
どこまでが趣味?どこからが依存症?
アルコール、ギャンブル、ゲームなどは、節度を持って楽しむことができていれば、それは「趣味」とも言えるものです。
では、どうなったら『依存症』と捉えるべきなのでしょうか?
医師が行う「診断」のためには、標準化された様々な基準を満たさなければいけません。
しかし、「支援対象になるかならないか」という視点では、シンプルに
「依存対象をコントロールできているか?」
で考えればよいと思います。
そして、「依存対象をコントロールできていないのであれば、コントロールできる状態に改善したほうがいいよね。」ということになります。
依存対象をコントロールできていない状態とは?
「『コントロールできていない』ってどういうこと?」ということですが、『依存症』という状態になってしまうと、何よりも依存対象(お酒・ギャンブル・薬物など)の優先順位が上になってしまいます。
命・健康、家族、仕事、財産・・・。
これらは、どう考えても依存対象より大切なものです。
しかし、『依存症』という状態になると、
「肝臓の数値が悪くなっても飲み続ける」
「家族を脅して金銭を手に入れる」
「家族には「残業」と嘘をついてギャンブルをしている」
「仕事をサボってギャンブルしている」
「二日酔いで仕事を休む」
「借金してでもギャンブルをする」など、
大切なものを大切にせず、依存対象が何よりも優先されています。
まとめると、下のような項目に当てはまっているとしたら、「本来大切なものよりも依存対象を優先してしまっている」、「依存対象をコントロールできていない状況」と言えるでしょう。
依存対象のために・・・
- 命や健康に支障がある。
- 家族を困らせたり、悲しませたりしている。
- 嘘をついている。
- 借金がある。
- 仕事に支障がある。
- 夢や目標が遠ざかっている。
このように、本来大切にすべきものよりも依存対象を優先してしまっていたら、それはコントロールできている状態とは言えず、『依存症』という状態です。
コントロールできている/できていないの方が、支援にも繋がりやすい
なお、この「コントロールできている/できていない」という考え方は、当事者を支援につなげる際にも有効な考え方です。
『依存症』は、「否認の病」とも言われており、当事者はなかなか自分が依存症であるということを認めようとはしません。
そのため、「あなたは依存症なんだから支援を受けなさい」と指摘されても、「私は依存症じゃない!」と反発されてしまいます。
しかし、「コントロールできている/できていない」という聞き方をすると、すでにコントロールできていない事実はあるので、「コントロールできているとは言えない・・・。」という答えにならざるを得ません。
そうすると、「そうであるならばコントロールできる状態にしなければいけませんね♪」と促しやすくなります。
『依存症』は気持ちではどうにもならない
『依存症』になってしまうのは、気持ちが弱いからなのでしょうか?
そうではありません!
脳科学の進歩に伴って、「『依存症』の状態の人は脳のはたらきに変化が起きている」ということが明らかになっています。
依存対象によってスリルや興奮・安心感などの良い気持ちを味わうと、脳内でドーパミンという快楽物質が分泌されます。
この快楽物質が脳内に放出されると、中枢神経が興奮し、快感につながります。
この感覚を、脳が報酬(ごほうび)と認識すると、その報酬(ごほうび)を求める回路が脳内にできあがります。
そして、脳内に快楽物質が放出されることが繰り返されると、脳はそれに慣れてしまい、少しの快楽物質では快感を味わうことができなくなってしまいます。
その結果、もっと多くの快楽物質を分泌させるために依存対象を求めることがエスカレートしていきます。
この悪循環が繰り返されることで、脳が「依存対象をコントロールできない脳」に変化してしまいます。
このように、『依存症』は意志の弱さや性格の問題ではなく、脳の仕業によって陥る状態です。
つまり、『脳の病気』です。
『依存症』は、条件さえ揃えばだれでもなる可能性があり、特別な人だけがなるわけではありません。
大学に進学して、誘われて初めて行ったパチンコ屋で大勝ちして・・・といったことからハマってしまうということもたくさん起こっています。
『依存症』は『脳の病気』だけど『回復』する
いったん報酬(ごほうび)を求める回路が脳内にできあがってしまうと、脳を以前の状態に戻すことは難しいと言われています。
その点では、依存対象から離れた状態というのは、脳内にできた回路の入り口に通行止めの看板を置いたような状態に例えられます。
看板を置いて通行止めにはしてありますが、道がなくなったわけではありません。
何かのきっかけで1回その道を使ってしまえば、またそれまで通り使うことができてしまうということです。
つまり、「依存症は治りません。」
しかし、「依存対象をコントロールした新しい生活スタイルを作り直すこと」は可能です。
この「依存対象をコントロールした新しい生活スタイルを作り直した状態」を『回復』と言います。
そのため、『依存症は、治らないけど回復できる』とよく言われます。
『回復』のために必要なもの
『依存症』は『脳の病気』です。
そのため、どんなに「反省」しても、回復にはつながりません。
依存症の方の「反省」の気持ちは真実です。
謝罪しているときには、心の底から「二度としない」と思っています。
でも、脳は依存対象を求めます。
芸能人の逮捕のニュースを見ると、「なぜ?」と思いますよね。
「あんなに収入があるのに…」「大河ドラマが決まっているのに…」
「なぜそれを失うことを考えない?」
それでもやってしまうのが、『依存症』という脳の病気です。
脳のメカニズムは、気持ちでは変えることはできません。
その点では、見せしめのような謝罪会見も、残念ながら効果はありません。
「反省」は当然した方がいいです。
しかし、反省しただけでは意味はありません。
大事なことは、反省しているうちに適切な支援につなぐということです。
その点では、世間の理解がまだ乏しく難しいのですが、違法薬物で逮捕された有名人の出演していたドラマの打ち切りや映画の上映自粛も望ましいことではありません。
依存症の方を謹慎させて、することがない状況にしてしまったら、脳がまた依存対象のことを考えさせてしまいます。
理想は、依存症の方にも活躍の場を提供し、依存対象に頼ることない生活を送っていってもらうということでしょう。
反省より治療
上の項目でご説明しましたが、反省の気持ちはとても大切です。
しかし、反省しただけでは、また脳が依存対象を求めてしまいます。
反省の気持ちをもとに、「依存対象をコントロールした新しい生活スタイル」を作るための行動を起こすことが大切です。
そして、依存症の治療として効果が認められているものには、『認知行動療法』と『自助グループ』があります。
『認知行動療法』
『認知行動療法』は、名前の通りで、「認知」と「行動」にアプローチする心理療法です。
依存対象に頼らない、新しい考え方や行動を獲得することを目指します。
現在では、依存症に特化したプログラムというか、パッケージのようなものが普及してきています。
『自助グループ』
『自助グループ』は、こちらも名前の通りで、自分たちで助け合う当事者のグループのことです。
同じような悩みを抱えた方達同士で、体験談を語ったりするミーティングを行います。
ミーティングを通して、「困っているのは自分だけではなかった」という安心感を持つことができたり、「回復のために頑張っている仲間がいる」という感覚を持つことができたりします。
1人で走るマラソンより、駅伝の方が力を出せたりしますよね?
自助グループへの参加を続けていると、チーム・グループであることのパワーを感じることができるようになってきます。
このパワーが、依存症からの回復のためにはとても効果的です。
自助グループは、アルコール・ギャンブル・薬物・窃盗癖・性・・と様々な種類のものがあり、また当事者用のものと家族用のものがそれぞれあります。
自助グループは、行ってすぐ効果が現れるものではありません。
ある程度の期間通い続けることで、少しずつグループのパワーを感じるようになっていきます。
心配になったら、相談機関にご相談を!
「日本にカジノを作ろう♪」となった際に、「依存症対策もしなくてはダメだろ!」ということになり、依存症関連の法律の整備はここ数年でグッと進みました。
結果、各地域の相談窓口は、主に各都道府県・政令市の精神保健福祉センターが担うことになりました。
各地域には、依存症の専門病院や自助グループがあり、ホームページなども作っている所が多いので、直接そちらに問い合わせてもまったく問題はありません。
しかし、何か迷うようなことがあるのであれば、公的機関の看板を背負った安定感のある精神保健福祉センターにとりあえず問い合わせることが安心かなと思います。
依存症の問題は、自分だけ・家族だけで解決していくことは非常に難しいです。
相談したことで劇的に状況が動くこともあります。
悩んでいるなら、抱えこまずに相談をしてみてください♪
やめ続けるためには、自覚が大事
最後に、やめ続ける(=回復した状態を維持する)ために必要なことについてです。
それは、『自覚』です。
何を自覚するのかというと、
『一度依存症という状態になったら、「やりたい気もちがなくなる」ということはない。』
ということです。
『依存症』は脳の病気です。
そして、治らないけど、回復します。
この、「治らないけど」ということをしっかり自覚することが大切です。
そのため、依存症の支援者は、依存症の方が「反省してます!もう2度としません!」と強く主張したり、「もうずっとやっていないし、これからも大丈夫です!」と自信を持っていたりすると、心配になります。
心配どころか、「依存症をなめるなよ」ぐらいに思います。
気持ちでは治らないし、自信は油断を生むからです。
反対に、「またやってしまいそうで不安だ」「1人ではやめ続けることはできない」と言う声を聴くと、安心します。
この自覚をもとに、どのように安心した環境を整えていくかを考えていけるからです。
一般的には、こんなことを言われたら不安になったり、「甘ったれるな!」と言いたくなると思います。
この辺りが依存症の難しさであり、依存症についての知識を普及させなければいけない理由です。
「治らないから、一生気をつけ続けなくてはならない」と自覚し、依存対象をやりたくならないように気をつけた行動をとり続けることが大切です。
まとめ
『依存症』は、脳の病気です。
脳の病気なので、意志や根性でどうにかなるものではありません。
また、「やりたい気持ちがなくなる」ということもありません。
そのため、我慢し続けるということは無理があります。
目指すべき所は、「依存対象に頼る必要のない新しい生活スタイルの構築」です。
「依存対象に頼る必要のない生活」を維持できていれば、それは「回復」という状態です。
「やりたい気もちがなくなるということはない」ということを「自覚」し、やりたくならないように気をつけ続けることが必要です。
「回復」という状態を維持できれば、充実した毎日を送ることも当然可能です!
以上のように、『依存症』には、依存症特有の知識がある程度必要です。
周囲の『依存症』の理解の乏しさが、依存症当事者の依存を強めてしまったり、不必要に苦しめたりということに繋がることがあります。
「お前の気持ち・意志の問題なんだから、自分で何とかしなさい」 は無理です。
『依存症』についての知識が広まり、『依存症』という状態になる前に踏みとどまることができた人や、『依存症』という状態になってしまったけれど回復した状態を維持し続けている人が増えていくことを願います☆