7歳~12歳の頃は、小学校という社会、コミュニティの中で、様々な経験をしていく時期ですよね。
発達理論①~③としてご紹介したエリクソンの理論は、この時期にもとても有効です♪
*「発達理論①~②」はコチラ♪
エリクソンの発達理論は非常に有能で、日本で有名な精神科医の佐々木正美先生も色々な本でご紹介されています。
佐々木先生の数ある名著の中でも特別有名な『子どもへのまなざし』も、ベースとなっているのはエリクソンの理論と言っていいと思います。
私も、子どもの支援に携わっている時には、担当しているお子さんについての報告書のようなものを書くときにエリクソンの理論は良く引用していました。
今回はエリクソンの発達理論④ということで、学童期(7歳~12歳)をご紹介させていただきます♪
エリクソンの発達理論
(写真:Wikipedia)
*この項目は①~②と同じです(^^;
①からお読み頂いている方は飛ばしてください♪
エリクソンは、あの有名なフロイトのお弟子さんで、ユダヤ系アメリカ人です。
エリクソンは、アメリカで様々な民族の子育てに触れる機会があり、「子育てにおける大切なことは、どんな民族にも共通している」という結論を導き出します。
そして、人間の一生を8つの段階(乳児期、幼児期、児童期、学童期、思春期・青年期、成人期、壮年期、老年期)に分け、それぞれの時期に、成熟・発達していくための主題(発達課題)があるとしました。
さらにエリクソンは、このそれぞれの段階の乗り越えるべき発達課題は、それ以前にクリアした発達課題を駆使して達成されていくと考えました。
「心の発達は積み重なっていく」ということですね。
また、このエリクソンの理論は、社会性の発達や成熟を考慮しているということもポイントです。
それぞれの発達段階で、必要な他者との関わりを通して人は成長していくとされています。
エリクソンの発達理論は、8つの発達段階に分け、それが積み重なっていくということで「ライフサイクル論」と呼ばれたり、社会性も考慮しているということで「心理社会的発達理論」と呼ばれたりします。
*「発達理論①~③」はコチラ♪
学童期(7歳~12歳頃)の発達課題は、『勤勉性』の獲得
エリクソンは、学童期(7歳~12歳頃)に達成すべきことは、『勤勉性』の獲得であるとしています。
エリクソンは『勤勉性』について、「社会から期待される活動を自発的に、習慣的に営むこと」と説明しています。
1つ目のポイントは、「社会から期待される活動を」です。
乳児期に大人に要求することで『基本的信頼感』を獲得し、
幼児前期に自分自身について考えることで『自律性』を獲得し、
幼児後期に興味関心が外に向いて『自発性・積極性』を獲得してきました。
ここまでは、自分本位・一方的な向きであったと言えます。
それが学童期に入り、ついに社会・周囲を考慮するようになったと言えます。
2つ目のポイントは、「習慣的」です。
突然だったり、やったりやらなかったりではないということです。
自身・世の中に対する『基本的信頼感』を基に、自身や周囲についての整理がひと段落したことで、周囲の状況も踏まえた上での自身の行動を考え・こなしていくということができるようになっていきます。
『勤勉性』を獲得できると・・・
「社会から期待される活動を自発的に、習慣的に営む」ということを積み重ねていけば、「自分なりにやっていける」「努力は報われる」という『有能感』を身につけることができます。
『有能感』があれば、その後も自分なりに努力して取り組むということができるようになっていきます。
反対に、『勤勉性』の獲得に失敗すると、「何をやっても上手くいかない」という『劣等感』を抱くことになってしまいます。
『基本的信頼感』から始まって『有能感』まで積み重なると、他者と関係なく、「自分はイイ感じ」という感覚を持つことができます。
そのため、優れた友人がいたりしても、その友人をリスペクトし、「自分も〇〇君みたいになりたい」と前向きにチャレンジできます。
しかし、ここまでの発達課題を獲得することができず、『劣等感』を抱いている子どもは、他者との比較で物事を捉えるため、優れた友人に対しては「嫉妬」や「敵意」を感じ、また自分より劣っている友人に対しては「優越感」を感じます。
他者との比較で物事を捉える癖がついてしまうと、自分より優れた相手がいると、「どうせ敵わない」と諦めてしまいます。
反対に、自分より劣った相手がいると、「あいつよりはできる」と油断してしまいます。
どちらにしても、成長につながる働きかけには繋がりにくいです。
『勤勉性』の獲得のためには
「社会から期待される活動を自発的に、習慣的に営む」ということをできるようになっていくために必要なこととして、エリクソンは「仲間と道具や知識や体験の世界を共有し合わなければならない」と主張しました。
つまり、「友達から何かを学ぶこと」と、「友達に何かを教えること」が必要だということです。
友達と世界を共有し合うことで、友達が何を期待しているのかを把握することができます。
また、友達に何かを教えた時の反応を見ることからも、友達が何を期待しているのかが分かるでしょう。
そして、友達が何を期待しているのかが分かれば、それを自発的・習慣的に行動に移すことができ、この経験が積み重なることで、「この社会の中でもやっていけそうだ」という感覚が固まっていきます。
その点では、まずは友達との交友の場数を踏むことが大切で、内容よりも量が必要になります。
交友の機会が少ないと、どうしてもその数少ない相手を比較対象として見てしまうため、「優越感と劣等感」という考えになりがちです。
しかしこの機会を多く確保できれば、「自分よりすごい人も、そうでない人もたくさんいる『けど』、自分は自分だし、イイ感じである。」という心持ちになりやすくなります。
まとめ
学童期までの間に、自己肯定感・自信は作られる
ここまで、小学校年代までの4つの段階を見てきました。
そしてここまでの4つの段階で、自己肯定感・自信といったものの素となるものが固まっていきます。
乳児期に『基本的信頼感』を獲得し、「自分は生きる価値がある」という感覚を持ちます。
幼児前期に『自律性』を獲得し、「自分自身をコントロールしていく自信」を得ます。
幼児後期に『自発性・積極性』を獲得し、外の世界に対する明るい見通しを持ちます。
そして、学童期に『勤勉性』を獲得し、「自分の属する社会の中でやっていけそうだ」ということを確認します。
こうして、学童期までに自分・相手・社会に対しての前向きな整理が終わると、これまでに得た自己肯定感・自信を基に、「自分とは?」や「アイデンティティ」というものを確立していく思春期に入っていきます。
スタートの『基本的信頼感』はやっぱり大切
エリクソンの理論は、「それぞれの段階の乗り越えるべき発達課題は、それ以前にクリアした発達課題を駆使して達成されていく」というものです。
つまり、「心の発達は積み重なっていく」ということなので、一番下の土台となる『基本的信頼感』はとても大切です。
『基本的信頼感』は、「心の深い所で自分の価値を信じることができていること」です。
『基本的信頼感』を獲得できていて、自分自身や周囲に対してポジティブな印象を持つことができていれば、何とか自分を律しようと思えるし、周囲に積極的にいけるし、期待に答えようともします。
『基本的信頼感』が獲得できれば、良い循環が回りだします。
このことを考えても、『基本的信頼感』を獲得するために1歳半頃までの間、赤ちゃんの要求全てに答えるぐらいの勢いで接し、「明るい未来が待っている」という感覚を持ってもらうことは重要です。
反対に、『基本的信頼感』を獲得できないと、「どうせ」という思いが強くなり、自暴自棄のようにもなるし、消極的になるし、周囲から期待されてるなんて思いません。
どんどん悪い循環になってしまいます。
ただ『基本的信頼感』は、乳児期でないと獲得できないわけではありません。
もっとも極端な例が、被虐待児でしょう。
被虐待児の支援は、その子が『基本的信頼感』を獲得し直すことが最終目標と言ってもいいと思います。
そのために、時には施設を使ったり、里親の元で暮らしてもらったりしながら、自分を受け入れてもらえた経験を積み重ねていってもらいます。
『基本的信頼感』を獲得し直そうとすると、子どもの年齢は大きくなっており、かつゼロからではなくマイナスからのスタートという状況です。
そのため、要求も乳児のような単純なものではなく、複雑で、要求に答える大人側はとても大変です。
しかしとても大変ですが、受け入れてもらえた経験は確実に積み重なります。
年齢が大きくなってからでも、発達課題の獲得のし直しはできます。
発達課題は、『基本的信頼感』だけでなく、その他の段階のものも獲得のし直しが可能です。
1人でも多くのお子さんが、『基本的信頼感』を獲得し、自身・世の中に対して良い印象を持ち、前向きな気持で成長していって欲しいと思います。