「ダメって言ってるでしょ!」
「また同じことして!」
やり方を教えてもできなかったり、やるなと言っても繰り返したり…。
大人には理解できない子どもの行動ってたくさんありますよね?
そんな大人にとっては意味不明な子どもの行動も、しっかり考えれば起こるべくして起こっているということが分かります。
今回は、お子さんの行動の背景にあるものが何なのかを探り、理解するためにはどのように考えるべきかについて説明します。
今回の記事は、発達障害に限らずどんなお子さんの場合にも利用できる考え方ですが、発達障害についてのこれまでの記事と強く関係しており、また発達障害のお子さんと接する際には特に丁寧に意識すべきことであると思うので、発達障害の括りの記事としてお伝えさせて頂きます。
1つの行動には様々な仮説が考えられる
お子さんの成功体験を増やしてあげる・失敗を減らしてあげる・問題行動をなくす…といったことのためには、お子さんがなぜそのような行動をしたのかを探り、その対策を練ることが必要になります。
そしてそのためには、その行動の背景にあることの理由を決めつけず、様々な仮説を考えてみることが大切です。
例えば作ってみたカレーが不味かったとき、その理由には様々な仮説が立ちます。
素材の鮮度が悪かった、ルゥが少なかった、水が多過ぎた、火力が強過ぎて鍋が焦げた…など。
さらに、素材の鮮度に問題があったとしたら、どの材料に問題があったのか…など。
1つの「カレーが不味い」ということに対して様々な仮説が立ちます。
そしてお子さんの行動についても、この例と同じです。
お子さんの行動についても様々な仮説が立ち、そして多くの場合はその中の何個かが影響してその行動が生じています。
「指示したことができない」という行動に立つ仮説
ここでは、「指示したことができない」ということを例に考えてみます。
ザッと考えただけでも、このぐらいの数の仮説は立つのではないでしょうか。
・カメラの難しさがあって指示を理解できない。
・知的な能力の限界があって指示を理解できない。
・散漫さの影響で指示を最後まで聞けていない。
・短期報酬が優位のため他のことをやりだしてしまう。
・衝動性が高いために他のことをやりだしてしまう。
・指示を出す人のことが嫌いで、言うことを聞きたくない。
・体調不良。
・聴力や視力などの身体的な苦手さによって指示理解・遂行ができない。
*気になったキーワードについては、それぞれの詳細な説明をご覧ください。
このように、1つの漠然とした「指示したことができない」という状態についても、様々な仮説が立ちます。
そして、多くの場合はこれらの中のいくつかが影響していると思います。
仮説を絞るためにすべきこと・してはいけないこと
その後の対策に結びつけるためには、たくさん挙がった仮説を検証して絞り込むということをしなければなりません。
そのために可能であればすべきことは、その行動が起こる『経過』の観察です。
その行動が見ている目の前で起こるのならば、その経過を分解して丁寧に観察することで、どこにその行動につながる理由があるのかがわかるかもしれません。
しかし、対策を練りたくなるようなお子さんの行動は、たいていの場合は親御さんの目の前では起こらなかったり、後から知らされたりするものではないでしょうか。
そのような場合には、観察できない代わりに本人の話を聞いてみることになると思いますが、この本人の話を聞くというときに抑えておきたいポイントがあります。
「理由」ではなく「経過」を聞く
対策を練りたくなるような行動についてお子さんに聞く場合、「何で?」と聞くことになるのではないでしょうか?
しかし、この「何で?」という問い方からは親御さんが求めているような答えは得られないのではないでしょうか。
「わかんない。」「やりたかったから。」や、聞かれてから考えたような後付けの理由を言われてお仕舞いになってしまうと思います。
実は、この「何で?」という質問に答えるということは、大人でも難しいことなのです。
自身に置き換えて想像してみると分かりやすいと思います。
例えば、ダイエットをしたことがある人ならば、ダイエットをしているにも関わらず、ついカロリーが高いものを食べてしまうということがあるのではないでしょうか?
その際に「あなたはなぜケーキを食べたのですか?カロリーが高いことは知ってますよね?」と質問されたらどのように答えますか?
おそらく、「食べたかったから。」や「今日ぐらい良いと思って。」ぐらいの回答しかできないのではないでしょうか?
このように想像すると、いかに「何で?」という質問が回答し難しい質問かが分かると思います。
では、「何で?」の代わりにどのように話を聞いたら良いのかというと、その「経過」を丁寧に聞いていきます。「理由」や「気持ち」ではなく、「経過」です。
「経過」を聴く
「経過」を聞くとは、「その対象となる行動や状態の始まりから終わりまでを説明してもらう」ということです。
「経過」を丁寧に聞くことの方が、ピンポイントで理由や原因を「何で?」と聞くことよりもはるかに効果的です。
例えば、「出掛けるまでに宿題を終わらせるように指示を出しておいたのに、宿題ができなかった」という状態があるとします。
この状態について始めから終わりまで丁寧に聞いたら「宿題をやっていて、わからない言葉を辞書で調べようとして本棚を見たときに、漫画を見つけて読んでいたら時間になっちゃった。」とお子さんが説明してくれたとします。
そうすると、「宿題をやる気はあったんだけど、偶然見つけた漫画に気を取られてしまったんだな。」ということがわかり、それが「宿題ができなかったという行動の背景にあるのは、「刺激へのつられやすさ」だったんだな。」という理解に繋がります。
さらに、このような理解ができることによって、例えば「刺激へのつられやすさをカバーするために、勉強に使う本と漫画は別の本棚にしまって、勉強中に漫画が目に入らないようにしよう。」という対策を講じることができるようになったりします。
この時、「何で宿題が終わってないの?」と聞いても、おそらく「漫画を読んでて…。」や「めんどくさくて…。」などといった答えしか得られなかったのではないでしょうか。
そうすると、お子さんの「宿題をやろうと思ってはいた」という評価できるポイントがなくなり、ただ「宿題をやる気がなくてやらなかった」という理解になってしまいます。
このように、「その対象となる行動や状態の始まりから終わりまでを説明してもらう」という「経過」を聞くということは、そのお子さんの行動や置かれている状態についての正しい理解を促し、その後の対策について考えるためのヒントを得ることができるだけでなく、結果的に失敗のようになってしまった行動や状態の中の評価できるポイントに焦点を当てることの助けにもなります。
叱らずに言い分を聴く
もう1つ、「経過」を聞くというようなテクニック的なポイントではなく、心構え・スタンス的なポイントがあります。
それは、「叱らずに」ということです。
最終的に叱る・指導するということが必要な場合はあるでしょう。
しかし、「次の機会に繋げるためになぜそうなってしまったのかを解明しておきたい」という目的がある場合には、叱る・指導するということよりも先にすべきことがあります。
それが、上記の「経過」を聞くということです。
「経過」を聞く前に叱る・指導するから入ってしまうと、お子さんは口を閉ざすか、言い訳を言って逃れようとするか、逆ギレするか…。
どちらにしても、事実の把握は難しくなります。
そのため、まずは「何がどうなってそうなったのか?」ということを説明してもらうことが大切になります。
咄嗟のことなので難しいのですが、「やめなさい!」「ダメじゃないの!」「何でそんなことしたの!」から「何があったの?」「どうしたの?」という始め方に変えることができると、その後に繋がる対策を練りやすくなります。
まとめ
何か改善したい行動・状態がある時には、叱らずに丁寧に「経過」を聞き、挙げられる様々な仮説と照合してその行動・状態の背景にあるものを探り、それをもとに今後に繋がる対策を練るというプロセスを経ることになります。
このプロセスを経ることで、「やってみる→怒られる→やる気がなくなる」という負のスパイラルから、「やってみる→うまくいかない→でも対策を考えてもらえた→やってみる→うまくいった→できることが増えた」という良い循環に変えることが出来るでしょう♪