宿題をやるつもりで帰ってきたのに、親に「宿題やりなさいよ」と言われた瞬間に宿題をやる気がなくなったという経験をしたことがありませんか?
このやり取りは、お子さんと関わる際のポイントに反してしまったことによって生じてしまっています。
そのポイントが、「指示・命令を『契約』という形に変える」ということです。
これまで、『そのお子さんの特性の正確な理解』ということが非常に大切であるということを、手を変え品を変えというように繰り返ししつこく説明させていただきました。
今回からは、その把握できた特性を踏まえて、お子さんと関わる際のポイントとなることを説明しようと思います。
これから説明するお子さんと関わる際のポイントは、これまで焦点を当ててきた発達障害を中心とした関わる際に配慮が必要なお子さんに対してだけでなく、定型発達のお子さんも含めた全てのお子さんに対して有効なポイントであると思います。
もっと言ってしまうと、会社の部下や後輩など、支援する側とされる側、指導する側とされる側などに分かれる関係において、全ての支援する・指導する側の人にとって有効なポイントだと思います。
ただ、発達障害等のお子さんたちは、その特性に特徴的な部分が多いため、これから説明させていただくようなポイントを抑えた関わりをした時の効果は顕著だし、反対にいうとポイントを抑えない関わりをした際の難しさも顕著であると思います。
『子どもが自発的に決めた』という形にする
上記の宿題の例の親御さんの働きかけは、まさに「指示・命令」です。
何かお子さんにしてもらおうとするとき、一番最初に思いつく働きかけ方は「指示・命令」でしょう。
しかし、一方的な「指示・命令」に対してはお子さんは反抗的になりたくなるし、指示通りにやった結果うまくいかなかった時には「お前のせいだ」と親御さんに責任を押し付けさせることに発展してしまう可能性もあります。
このような時に有効な考え方が、『契約』です。
「指示・命令」と違って、『契約』には双方向性があります。
「指示・命令」は、指示・命令を受ける側の考え方を考慮せずに一方的に押し付けることも可能です。
しかし、『契約』は双方の合意が必要です。
「双方の合意が必要」ということは、親御さんから見た相手、つまりお子さんの意見も反映されているということになり、お子さんにとっても「自分も了承した」「自分で決めた」という感覚を持つことができます。
このお子さんが『自発性』を感じることができるということはとても重要です。
「やらされている」という感覚ではなく、「自分で決めた」という感覚を持つことができれば、それに伴う責任感も生まれます。
また、「自分で決めた」という形になっていれば、「その場をコントロールできている」という感覚を持つこともでき、「やらされている」「コントロールされている」という感覚を持っている時よりもストレスは少ないでしょう。
『契約』という形の作り方
何かやってほしいことができた後で、それをやってもらうための『契約』を結ぶということは難しいです。
つまり、『契約』は先に結んでおくことが理想です。
そして、『契約』を結ぶ時にすることは、仕事の取引やスポーツ選手の移籍の時と同じで、話し合いです。
親御さんとお子さんが共通の問題意識を持ち、それを解決させるための方法を話し合う中で、『契約』は発生します。
親御さんがお子さんをより良い方向に導くための『契約』を結ぶ際には、以下のようなポイントがあります。
(1)オファーは大人から
親御さんがお子さんを思う気持ちから『契約』を結びたくなるような場面では、お子さんは『契約』を結びたいなんて思っていないことが多いでしょう。
「僕、どうしても宿題をやるのが後回しになっちゃうから、宿題を早めにやれるようになるための契約をお母さんと結びたいんだけど・・・。」とお子さんから話しかけてくるなんて考え難いですよね。
ですから、『契約』について働きかけるのは基本親御さんからになります。
(2)主役は子ども
働きかける際には、主役をお子さんにした提案の仕方をします。
主役が親御さん、つまり「私(親)が困っている」「私(親)が直してほしいと思っている」という伝え方をしても、「俺は困ってないし」とか「関係ないし」といったことを言われてしまうでしょう。
そのため、「あなた(子)は〇〇ね」や「あなた(子)が〇〇のように見えるわ」など、お子さんを主役にした伝え方にします。
これをそのまま言ってしまうと、「Iメッセージ」という自分を主語にした言い方に反してしまうので、「Iメッセージ」も取り入れると、
「私はあなたが〇〇だと思っている」
「私にはあなたが〇〇のように見える」
といった言い方になるでしょうか。
お子さんの状況を反映した上でお子さんを主役にしてあげれば、「そんなことない」と言われてしまうことは少ないでしょう。
(3)「『契約』を結ばせる」という、結局『指示・命令』じゃん!」ということにならないように注意する
無理やり『契約』させたら、それは結局ただの『指示・命令』です。
結ばせられた無理やりの『契約』なんて、お子さんからしたら当然守ろうという気持ちは出てきません。
働きかけは親御さんのからでも、『お子さんが自発的に決めた』という形になるようにしなければいけません。
(4)大人の熱い気持ちではなくて、子どものメリットに訴える
『契約』のような形になったとしても、親御さん側のメリットばかりの不平等条約では、やっぱりお子さんにその『契約』を守ろうという気持ちは出てきません。
親御さんの熱い気持ちや将来の心配を伝えるのではなく、お子さんにとってのメリットを伝えるようにしてあげると、お子さんも「あぁ、じゃあそうしてみようかな。」という気持ちになりやすいです。
まとめ
(1)〜(4)を踏まえると、例えば、
「あなたは毎日夜中や朝に焦って宿題をやっていて大変そうね。私と一緒に宿題を先にやってしまうための約束を作らない?テレビは録画ができるし、ゲームをできる時間も減らないんだから、宿題を先にやってしまえばのんびり自分が好きなことができるわよ。」
…なんてなったりします。なんだかアメリカのホームドラマみたいな言い回しになっちゃいましたが…。
基本的には(1)〜(4)を踏まえているのですが、この働きかけ方は、
・お子さんを主役にして、お子さんにとっての不利益な状況をであることを提案し、
・『契約』を結ぶための話し合いをすることを促し、
・『契約』を結ぶことによるデメリットはなく、
・『契約』を結ぶことによるメリットはある。
ということを提案する形になっています。
このような、お子さんに自発的な変化を促す提案をすることができれば、お子さんが「そうか。じゃあ下校しておやつを食べた後にまず宿題をやることにするよ。」と自発的に宿題から済ませてしまうような提案をしてくる可能性がかなり上がるのではないでしょうか。
『北風と太陽』の「太陽」で!
人は誰でも、支配されることは嫌いです。
ということは、「指示・命令」はできたらされたくありません。
『自発的』ということの重要性を示す良い例に、童話の「北風と太陽」があります。
「北風と太陽が、1人の旅人のコートを脱がすことができるかを勝負した際、北風がどんなにビュービュー吹いても旅人はコートを必死で抑えて脱がすことができませんでしたが、太陽がポカポカ照らしたところ暖かくなって旅人は『自発的』にコートを脱ぎましたとさ。」というお馴染みのお話です。
「指示・命令」には、支配・被支配という関係が生まれるため、支配しようとする側とされる側で争いが生じやすいです。
しかし『契約』という「自発的に決めた」形をとることで、抵抗しようという気持ちは和らぎ、毎日のしなくてはいけないことをめぐる親子の争いが緩和されるでしょう♪